CHAPTER
TWO
検証!未来につながるキャンパスライフ

#07 がんばって良かった!?

卒業論文研究の
効用を探る

卒業生は語る!
「研究力」が育む「仕事力」

東京薬科大学での学びが社会に出てからの成長や活躍に生きていることは、これまで何度も明らかにしてきた。第6回では、大学時代の学習成果の中でも「知識・能力(社会人基礎力)」の獲得と関係が深いファクターとして「卒業論文研究の達成レベル」が挙げられた。これまで自由記述(第1回)や統計データ(第2回)の分析からも、「卒業論文研究」に取り組んだ経験が社会に出てから役立っていることがわかっている。そこで今回は、「卒業論文研究」をめぐる卒業生の言葉を深く掘り下げた。

卒業生の記述を読み解くと、薬学部と生命科学部の卒業生の両方に共通して「卒業論文研究」が「仕事」につながる3つのルートが見えてきた。

一つ目は、「研究活動に伴うスキル」が身につくことが仕事につながるルートだ。卒業論文研究を通じて「情報を収集する力」「実験の技術」「論理的思考力・課題解決力」「プレゼンテーション力」といった認知的なスキルを身につけたことが、仕事につながっていると多くの卒業生は考えている。二つ目には、教師や同僚・先輩・後輩との人間関係構築、すなわち「社会関係資本(人間関係)」が仕事につながることがわかった。さらに三つ目として、「忍耐力」「やり抜く力」「粘り強さ」「心構え」や「自信」といった社会情緒的な「非認知的な能力(汎用能力)」を身につけたことが仕事につながることも判明した。

「研究する力」は、実用的なスキルだけでなく人間関係や社会情緒的な力の3つ側面で「仕事力」の育成に役立つといえる。

数字でひも解く
卒業論文研究の効用

続いて、卒業生の言葉で語られた「卒業論文研究の効用」を統計データで詳しくひも解いてみた。卒業生調査では、「卒業論文研究を振り返って、次のことがどのくらいあてはまりますか」として、8項目について4段階で評価してもらった。

「とてもあてはまる」「あてはまる」と答えた割合の合計を見ると、生命科学部と薬学部の実験研究コースの卒業生は、いずれの項目においても高い割合で「身についた」と考えており、数字でも卒業論文研究の効用が明白に表れた。

とりわけ両学部ともに際立って高かったのが、「専門知識の理解力」と「困難をやり遂げる力」が身についたと答えた割合だ。卒業論文研究という主体的な学びを通じて、認知的な能力と非認知的な能力の両方が身につくことが数字でも示された。

卒業論文研究を通じて「身についた」と答えた割合

卒業論文研究を
どのくらい一生懸命やったか?

卒業生調査では、単に卒業論文研究を「やった」かどうかだけでなく、「どのくらいやったか」、その達成レベルについても詳しく調べている。

卒業論文研究について、「積極性(自分から率先して能動的に取り組んだ)」、「情報収集力(自主的に最新情報を収集し、理解した)」、「実験技術力(実験技術を他の学生に指導できる水準に達した)」、「研究立案力(結果を解釈し、次の研究計画を立案できた)」、「学術力(研究成果を学術雑誌に投稿するレベルに達した)」、「プレゼン力(原稿なしで発表し、質問に的確に答えられた)」、「卒業後も研究をすすめる意欲が湧いた」の7項目について、「とてもあてはまる」から「まったくあてはまらない」まで、4段階で卒業生が自己評価した結果をみてみよう。

まずわかるのは、いずれの項目においても生命科学部の卒業生の方が達成レベルが高いことだ。また薬学部、生命科学部両方の卒業生に共通して達成レベルが高かったのは、「積極性」、「研究立案力」、「プレゼン力」の三つだった。

さらに卒論の達成レベルと「社会人基礎力(大学で身につけた知識・能力)」との関係を調べると、達成レベルが高いほど「社会人基礎力」も高まることが示された。卒業論文研究に一生懸命取り組むことがいかに重要かが、ここでも明白になった。

学生、教員両方の努力で
卒業論文研究の達成レベルがアップ

これまで見てきた卒業論文研究の効用を因果関係や相関関係がわかるようまとめると、図のようになる。

卒業論文研究を通じて「身についた」と答えた割合

まず卒論の達成レベルが高いほど「身につく知識・能力(社会人基礎力)」が高くなることは、前トピックスで示した通りだ。また図を見ると、卒論の達成レベルは「学生が研究室に通った頻度」と「教員の指導が十分だったか」というファクターとも相関が高いことがわかる。つまり学生が研究室に足しげく通い、熱心に研究することはもちろんだが、それに加えて教員がいかにていねいに指導するかも卒論の達成レベルに関係するのだ。学生と教員両方の努力によって卒業論文研究の達成レベルが上がり、それが「社会人基礎力」の育成にも波及していくというわけだ。

今学んでいる在学生に伝えよう!
卒業論文研究の大切さ

ところで卒業生は実際どのくらい熱心に卒業論文研究に取り組んだのだろうか。「学生時代どのくらい研究室に通ったか」を尋ねた結果を見ると、「ほとんど毎日通った」と答えた卒業生が多数を占めた一方で、「あまり通っていなかった」と答えた卒業生も一定数いることがわかった。薬学部では、「3割も通っていなかった」と答えた卒業生が20%にものぼる。そうした卒業生も、卒業論文研究が社会人になってもいかに重要かを知っていたら、もっと熱心に取り組んだに違いない。ぜひ教訓として、卒業論文研究の多元的な効用をまさに今、学んでいる学生に伝えてほしい。