CHAPTER
ONE
大学の学びは
仕事に役立つのか?

#02 数字で見る!

大学時代の学びによって
仕事が変わる?
収入が変わる?

大学で得た知識や経験が
今の仕事に役立っている?

東京薬科大学で学んだことは、卒業後の今の仕事や暮らしに役立っているのか。第1回(東薬で学んだことは今、生きていますか?)では、卒業生たちの言葉からその特徴や傾向を浮き彫りにした。今回は統計データを基に、数字からそれを明らかにする。

在学中の学びや経験を9項目ピックアップし、それぞれが現在の仕事や暮らしにどの程度役立っているかを10点満点で評価してもらった。学び・経験の項目は、次の9つだ。「専門科目の講義」「基礎実習(薬学)・専門実習(生命科学)」「実務実習(薬学)・インターンシップ(生命科学)」「卒業論文研究」「外国語教育」「情報処理教育」「人文社会系教育」「部・サークル活動」「薬剤師国家試験勉強」(生命科学部卒業生は該当外)。

在学中の経験の役立ち度/現在の仕事・暮らしで
役に立っているか?

在学中の次の経験は、
現在の仕事や暮らしに役に立っていますか。
「とても役に立っている」10点、
「まったく役 に立っていない」
1点の10点満点で評価してください。

薬学部と生命科学部の卒業生それぞれで、各項目に対する評価の平均点を比較すると、その違いが歴然となった。まず薬学部において最も役立ったという評価(役立ち度)が高かったのは、「薬剤師国家試験勉強」。その後に「専門科目の講義」と臨床の「実務実習」が続く。それに対して国家試験に関係のない「外国語教育」や「人文社会系教育」の役立ち度が極端に低く、その差の大きさが目を引いた。

一方、生命科学部の卒業生が最も役立ったと評価したのは、「卒業論文研究」だった。薬学部の結果と異なるのは、「外国語教育」と「情報処理教育」に対する評価の高さだ。

そして両学部に共通していたのが、「部・サークル活動」、言い換えれば人間関係に対する役立ち度が高いこと。これらの数字は、自由記述の内容ともおおむね一致していた。

数字が裏付ける
卒業生たちの言葉

学部それぞれの「役立ち」評価をさらに詳しく掘り下げてみる。生命科学部の特徴は、各項目が役立ったかどうかの評価が、人によって大きく分かれることだ。とりわけ「専門科目の講義」や「専門実習」「インターンシップ」「卒業論文研究」においてそれが顕著で、「大学の専門と仕事は大いに関連する」と答えた人から「まったく関連がない」と答えた人まで、評価は多岐にわたっている。卒業生自由記述にも表れていたが、大学の学びが卒業後に役立つかどうかは、どのような仕事に就いたかでずいぶん変わる。生命科学部の卒業生が選ぶ進路の多様さが、この結果に表れているといえるだろう。

一方の薬学部では、どの項目においても卒業生の評価にほとんど差が見られない。こうして学部別に詳らかにした数字も、自由記述で語られた言葉を裏付けていることが明らかになった。

大学の専門と
仕事の関連からみた役立ち度

薬学部卒業生の年収は、
大企業に勤める人より高い?!

大学時代の学びがその後の人生にいかに影響を与えるか、それを如実に物語っているのが「収入」だ。薬学部卒業生の平均年収を22歳から60歳まで経年で追うと、ほとんどの年代で大企業に勤める大学卒業者の年収を上回ることがわかった。

厚生労働省が発行している「賃金構造基本統計調査報告書」(2016)の学歴別所得データによると、高校卒業者(18~60歳)の生涯所得は2億14万円。大企業に勤める大卒者(22~60歳)は2億9,674万円と、生涯年収は高卒者より9千万円以上も高い。薬学部卒業生(24~60歳)は、さらにそれを上回る3億1,446万円もあるのだ。薬学部に関わりのある業種で最も生涯所得が高いのは、製薬業種(24~60歳)で、生涯年収は3億6,539万円にのぼる。

いずれにしても薬学部で薬剤師免許を取得した後につかむ「確かなキャリア」は、年収にはっきりと表れている。

生涯所得による
「人生のEconomic Outcome」

高卒者(18~60歳) 2億0,014万円
(高卒基準)
大卒者(22~60歳) 2億6,025万円
(+6,011万)
大企業大卒(22~60歳) 2億9,674万円
(+9,660万)
薬剤師職(24歳~60歳) 2億8,494万円
(+8,480万)
薬学部卒(24歳~60歳) 3億1,446万円
(+11,432万)
製薬業種(24歳~60歳) 3億6,539万円
(+16,525万)

学歴別の所得データ:「賃金構造基本統計調査報告書」2016年による

薬学部卒の女性は
キャリアも年収も高い

もう一つ薬学部の卒業生に特徴的なのが、「確かなキャリア」が女性にも当てはまることだ。今回の卒業生調査と総務省統計局の「労働力調査年報」(2017)を比べた結果を紹介しよう。仕事を辞めた人(無職)、自営業、派遣・パート等の非正規就業者、正規就業者の4分類で調査した結果を比較すると、まず際立っているのが、薬学部卒業生の正規就業者の多さだ。女性全般を対象に調査した「労働力調査年報」の正規就業者の割合は、20代の46%から年齢を重ねるごとに減少し、50代には28%にまで減少する。それに対して薬学部を卒業した女性は、20代では実に92%が正規就業に就いており、50代でも半数近くの47%が正規就業に就いている。

年収に関しては、さらにその違いが著しい。「賃金構造基本統計調査報告書」(2016)の結果と比較すると、薬学部を卒業した女性の平均年収は、20代で434万円と、大卒女性全体の平均年収の367万円はもとより、大企業に勤める女性の平均年収398万円をも上回る。その差は年を追うごとに大きくなり、50代になると、薬学部卒の女性が812万円であるのに対し、企業に勤める女性全体の年収は604万円と、実に200万円も差が開く。この結果は大企業に勤める女性の平均年収697万円と比べても大きく上回っている。薬学部を卒業した女性がいかに「確かなキャリア」を重ねるかがよくわかる。

東薬 薬学部女性卒業生のキャリア比較

仕事、収入に表れる
生命科学部卒業生の
チャレンジングな生き方

それでは生命科学部の卒業生はどうだろうか。第1回では、同学部の卒業生が多様な進路に進む、「挑戦するキャリア」が明らかになったが、同じことは統計データにも表れている。円グラフに見るように、製薬から卸小売サービスまでとても幅広い業種に就職していることが分かる。

生命科学部の就職の多様性

生命科学部が開設されたのは1994年。最初の卒業生を送り出してから25年しか経っておらず、最年長でも40代半ばになったばかりだ。薬学部と比較して平均年収が低くなるのは、卒業生の年齢がまだ若いからだが、性別・世代別の年収を「賃金構造基本統計調査報告書」(2016)の「大卒平均」および「大企業大卒平均」と比べると、男女ともに、大卒の平均を上回っており、大企業の大卒に近い。かなり高い年収だといえるが、表にみるように、業種による年収に大きなばらつきがある。この多様性に生命科学部のキャリア選択の悩ましさが表れているといえる。

いずれにしても「挑戦するキャリア」の言葉通り、働くフィールドや年収にも、生命科学部の卒業生のチャレンジングな生き方が浮かび上がってきた。

生命科学部卒業生の年収比較