CHAPTER
ONE
大学の学びは
仕事に役立つのか?

#01 卒業生に聞いた

東薬で学んだことは今、
生きていますか?

卒業生2,000人の声が物語る
大学の学びと今の仕事

東京薬科大学で過ごした学生時代。授業や実験、卒業論文研究や試験勉強に打ち込んだり、クラブ活動に熱中したり、友人と遊んだり、それぞれに思い出は尽きないだろう。そうした学びや経験は、果たして卒業後、仕事に生かされているだろうか。

「大学で学んだことが今の仕事にどのように生かされているか」について卒業生に自由に記述してもらったところ、実に2,000にのぼる回答が寄せられた。役に立っている点が数多く挙げられた一方で、「まったく役に立っていない」といった記述も見られる。これらの膨大な記述を整理・分析した結果、薬学部と生命科学部それぞれの卒業生がたどったキャリアの違いと共に、大学時代の学びが今の仕事をいかに支えているかが明らかになった。

2,000人を超える卒業生のみなさんから、学生時代を省みた率直な回答が寄せられた。

薬学部の「確かなキャリア」に
直結する5つの学び

薬学部の卒業生の記述を内容によって大別すると、7つの特徴的な言説が浮かび上がってくる。まずひと際明白なことは、いうまでもなく仕事において「薬剤師免許は確かに役に立つ」ということだ。卒業生の大多数が薬剤師資格の必要な専門職に就く薬学部では当然の結果だろう。薬剤師免許は卒業時だけでなく、転職や定年退職後の再就職にも役に立つことが回答からわかっている。

では薬剤師免許以外に今の仕事に役に立っているのは、どのような知識・スキル・経験だろうか。卒業生の記述からは、「専門知識」、仕事をする上での「基礎となる知識」、また実習など仕事に必要な実践的な「教育支援」といった大学の学びに加えて、「卒業論文研究」を通じて得た経験や、クラブ活動や研究を通じて培った「人間関係」もキャリアに生きていることが明らかになった。薬剤師という「確かなキャリア」は、大学での学びや経験に支えられ、築かれるものなのだ。

しかし卒業生たちがそんなキャリアに直結する学びを手放しで評価しているかというと、そうではない。薬剤師免許は確かに就職には役立つが、国家試験に合格するためには膨大な知識の習得が必要で、大学教育がそれに偏ってしまうことに疑問を持つ卒業生が少なからずいる事実も浮き彫りになった。

「確かなキャリア」
を支える薬学の五本柱

卒業生が自由記述欄に記した言葉の数々を分析するのに用いられたのが「KJ法」である。収集した言葉をカードに文章化し、意味が似ている言葉(カード)をグループ化してまとめ、グループ化した言葉の関係性を図解して全体の構造を捉える。雑多な言葉を組み立てて統合し、新しい言葉を創っていくことから「言葉のくみたての工学」とも称される手法だ。

生命科学部の
「挑戦するキャリア」
に生きる5つの学び

次に生命科学部の卒業生の言葉からは、薬学部とは違った様相が見えてきた。最も大きな違いは、生命科学部の卒業生の進路は薬学部に比べて非常に多様であり、大学で得た知識を生かせるかどうかは、どのような仕事に就くかによって異なるということだ。もちろん専門知識が役立つ仕事もあるが、多くの卒業生にとっては、生命科学の知識そのものよりも、学びを通じて培った「幅広い教養としての科学的思考」の方に価値がある。一方で、実際仕事に役立つのは、専門知識よりもむしろ英語や情報技術といったどんな職種にも必要とされる知識・スキルだという事実も興味深い。

生命科学部の卒業生のキャリアは人によって多種多様だ。そうした「挑戦するキャリア」もまた大学で得た5つの学びの柱に支えられていることが明らかになった。それに加えて、卒業生の記述から浮き彫りになったのが、「もっと真剣に学べばよかった」「先生にきちんと教えを乞うべきだった」といった反省の気持ちだった。選択肢の多いチャレンジングなキャリアは魅力的な反面、不安もつきまとう。それを解消し、キャリアにつながる学びを得るには、学生自身の学ぶ姿勢や教師との信頼関係が欠かせないのだ。

「挑戦するキャリア」
を支える生命科学の五本柱

卒業論文研究の
経験と築いた友情、
それこそがかけがえのない財産

ここで改めて薬学部と生命科学部で得られる教育の相違点と共通点を見てみよう。まず両学部では、キャリアの「見え方」が違う。薬学部では、比較的はっきりしているのに対し、生命科学部は多様で、開拓する魅力と不安がある。キャリアが違えば、知識の役立ち方が違うのも当然のことだ。薬学部では「専門知識」や「基礎知識」「就職支援」が役立つのに対し、生命科学部では「専門知識」の役立ち方には個人差があり、むしろ「教養としての科学的思考」や「英語・情報技術」といった汎用的な知識の方が役立つ傾向にある。

一方で、キャリアは異なるにもかかわらず、両学部の卒業生のいずれもが役に立ったと答えたのが、「卒業論文研究」と「人間関係」だった。研究室で遅くまで実験に明け暮れ、論文の執筆に追われた日々。そうした経験は、粘り強くやり抜く力や困難を乗り越える自信として、しっかりと卒業生の素地となっている。また共に研究した仲間、クラブ活動や一緒に遊んだ友達、そうした厚くて広い東薬人脈こそが、何にも代えがたい財産かもしれない。