CHAPTER
ONE
大学の学びは
仕事に役立つのか?

#03 分析手法を紹介

学びと仕事に対する
東薬卒業生の本音を
浮かび上がらせた
「KJ法」とは?

言葉の断片をまとめ、
新しい言葉を組み立て、
関係性を図解する

いくら多くの情報を集めても、それだけでは単なるデータ(言葉・数字)の断片に過ぎない。それらをまとめ、整理し、意味を見出して新たな言葉を与える。こうして初めてデータは生きたものになる。

膨大な情報からその背後にある意味を読み解く一つの方法が、数理統計だ。回帰分析や因子分析、クラスター分析など分析手法にはさまざまなものがあり、今回の『東京薬科大学卒業生調査』で収集した5,081人の有効回答者のデータについても重回帰分析などを使って分析した。一方、数字ではなく、卒業生が自由記述欄に記した言葉の数々を分析するのに用いたのが、「KJ法」と呼ばれる手法である。

KJ法は、収集した言葉をカードに文章化し、意味が似ている言葉(カード)をグループ化してまとめ、グループ化した言葉の関係性を図解して全体の構造を捉える。雑多な言葉を組み立てて統合し、新しい言葉を創っていくことから「言葉のくみたての工学」とも称される。

思考力を豊かにする
最強の武器

川喜田 二郎『発想法』中公新書

既成の概念や事前の仮説に基づいてカードを分類(処理)するのではなく、既成の概念に囚われず、データに語らしめるところにKJ法の面白さがある。KJ法の創始者である川喜田 二郎の著書『発想法』を是非読んでほしいが、KJ法による言葉の組み立ては、思考力を豊かにする最強の武器であるのは間違いない。

50年も前に構想された手法であるが、変わらず今でも、クリエイティブなアイディアを生み出したり、問題の解決の糸口を探ったりする手段として、研究だけでなく、ビジネスの現場でもしばしば応用されている。皆さんにもぜひ「KJ法」を知り、「思考力を豊かにする最強の武器」を手に入れてほしい。

では実際にどのような手順で進めるのか。東京薬科大学の卒業生が自由記述欄に書いた2,000に及ぶ記述を例に紹介しよう。

STEP 1 | 似ている言葉をグルーピング

自由記述欄のすべてに目を通すと、同じ内容もかなり多い。重複を避けてカード化し、最終的に薬学部225枚、生命科学部143枚のカードを作成した。次に、これらのカードをランダムに並べて、意味や内容が「似ているな」と思われるカードをまとめてグループにする。この時は一旦理屈を忘れ、感性に任せてグルーピングすることが大切だ。

次に、グループにまとめられた数枚のカードを読んで、似ていると思う気持ちを主語と述語を含む一行の見出しで表現する。グループを表現するにふさわしい「表札」の言葉を創り出す作業だ。

STEP 2 |ループを絞り込み、
新しい「見出し」をつける

グルーピングは一度では終わらない。小グループの新しい見出しを読みながら、似ているグループをさらにくっつけていく。複数のグループがひとまとまりになったら、中グループとして、再び一行見出しをつける。これを何度も繰り返し、グループの山が9つ以下になるまで続ける。本調査では最終的に、薬学部は7つ、生命科学部は8つのグループにまでまとめられ、それぞれに新しい見出しをつけた。

STEP 3 | グループの関係を構造化する

最も重要なのが、最終的に分類した7つ、あるいは8つのグループ(言葉)を空間に配置し、グループ間の関係を構造化することだ。とりわけ因果関係、相関関係、対立関係の3つの関係に着目し、グループ間の関係を図解してみる。それは、互いの関係を言葉でつなぎ合わせ、一つの物語を紡ぎ出すのに似ている。

こうして表した全体像を眺めると、各言葉・言説同士の距離や関係とともに、その背景にある意味が浮かび上がってくる。連載第1回(東薬で学んだことは今、生きていますか?)で紹介した「“確かなキャリア”を支える“薬学”の五本柱」と「“挑戦するキャリア”を支える“生命科学”の五本柱」は、このプロセスを経て描き出されたのだ。