CHAPTER
ONE
大学の学びは
仕事に役立つのか?

#04 徹底解析!

収入と仕事に対する満足
決めるのは、社会で身につけた力

役に立つのは、大学で得た知識・能力?
社会人になって培った知識・能力?

「東薬で学んだことが、今の仕事や暮らしに役立っているのか」について検証した第1回(東薬で学んだことは今、生きていますか?)第2回(大学時代の学びによって仕事が変わる?収入が変わる?)では、大学でのどのような学びが現在の仕事や収入に生かされているのかが明らかになった。

しかし「そうは言っても、大学時代に学んだことより社会人になってから身につけた知識やスキルの方が、今の仕事には役に立っている」と考える人は少なくないだろう。事実、「卒業生調査」でも、「現在の知識やスキルは、社会人になってから得た」(1965年生まれ、薬学部卒業)、「学んだことが生かされているというよりも、卒業後に自学して身につけたのが本当のところ」(1977年生まれ、生命科学部)という声が、学部や年齢、性別を問わず数多く聞かれた。

そこで今回は、大学時代に身につけた知識や能力と、社会人になってから培った知識や能力のどちらが現在の仕事にとって有用だと卒業生は考えているのかを検証しよう。

今の仕事に必要なのは、
社会人になってから身につけた「社会人力」

「卒業生調査」では、12項目に及ぶ知識や能力について、「現在どのくらい身につけているか」、また「学部卒業時にどのくらい身につけていたか」を5段階で評価してもらった。前者は「社会人になってから身につけた知識・能力=社会人力」、後者は「大学で身につけた知識・能力=社会人基礎力」と考えることができる。

集計データを分析した結果を見ると、まず
大学の専門知識技能 チームワーク 粘り強くやり遂げる力
は、卒業生の多くが「大学で身につけた知識・能力(社会人基礎力)」だと認識していた。また、
リーダーシップ 自ら分析し提案する力 英語力
は、卒業時も現在も「身につけている」と答えた人の割合が低かった。しかしそれ以外の項目は、いずれも「社会人になってから身につけた知識・能力(社会人力)」と答えた人の割合が「大学で身につけた知識・能力(社会人基礎力)」と答えた人の割合を大幅に上回っていた。それが最も顕著だったのは、
現在の仕事に必要な知識
だった。この結果から、多くの知識や能力は、大学での学びよりもむしろ、社会人になってから身につけていったものだといえる。

卒業後に成⻑する知識能力

“現在”身についている割合。
「かなり」と「やや」の合計。および“卒業時”の割合

同じ学部を卒業しても
年収にはバラつきがある

さて、問題はここからだ。「大学で身につけた社会人基礎力」と「社会人になって身につけた社会人力」は、卒業後の収入にも影響を及ぼすだろうか。

それを検討するにあたって、まず卒業生の平均年収を学部、性別ごとに見てみる。すると、同じ学部や性別であっても年収に大きな差があることがわかった。薬学部・生命科学部の男女の卒業生で最も平均年収が高いのは、薬学部卒の男性で金額は882万円だが、標準偏差を見ると、大きなバラつきがあることがわかる。薬学部卒の女性の間でも、男性ほどではないにせよ、かなりのバラつきが見られる。ではそれほど大きな差ができる要因は何なのか。

卒業生の年収に影響を与えると考えられる要因(変数)として、「労働年数」、「職種」、「職位」、「企業規模」、「転職経験」の他、「現在の知識・能力(社会人力)」と「大学で身につけた知識・能力(社会人基礎力)」、さらに「相談できる友人の数」などを選び出し、それぞれと年収との関係を重回帰分析によって明らかにした。

卒業生の平均年収を
学部・性別ごとに見てみる

大学時代の努力は、
年収にはほとんど影響しない

最も平均年収のバラつきが大きかった薬学部卒の男性の場合、まず年収にプラスに働く要因として、「労働年数」や「職種」、「職位」、「企業規模」と並んで、「現在の知識・能力(社会人力)」や「相談できる友人」、「現在の学習時間」との関係が浮かび上がった。この結果から、社会に出てから培う知識・能力や人が、高い年収につながる重要な要因であると考えられる。一方で、「大学で身につけた知識・能力(社会人基礎力)」と年収との有意な関係は見出せなかった。

次に薬学部卒の女性の場合は、男性と同様、年収と「社会人力」に関わりが見られた反面、「現在の学習時間」や「相談できる友人」は関係しないことがわかった。「社会人基礎力」に至っては、年収に関係ないどころか、かえってマイナスの影響を及ぼしているという結果になった。

生命科学部に関しては、卒業生のほとんどがまだ40歳未満であることから、「労働年数」の影響を最も大きく受ける結果となったが、その中でもなお男女とも「社会人力」が年収にプラスの影響を及ぼすことが見て取れる。

こうして見ると、大学時代の努力は、「年収」という点においてはほとんど報われていないように思えてくる。

年収を規定する要因(男性の場合)

東薬で身につけた知識・能力は
無意味なもの?

年収だけでなく、「仕事に対する満足度」と「現在の知識・能力(社会人力)」、「大学時代の学び」との関係も詳らかにした。すると、薬学部、生命科学部の卒業生のいずれも「社会人力」が高い人ほど「仕事に対する満足度」も高いという結果となった。これには納得する人も多いだろう。だが「学業成績」と「仕事の満足度」との間に有意な関係を見出すことはできなかった。

今回の検証によって、収入や仕事に対する満足感を決めるのは、卒業後に培った「社会人力」であり、大学時代に身につけたことはあまり関係ないことが明らかになった。社会で働く多くの人にとって、収入や仕事に対する満足感は、「幸福」であるための極めて重要な要素である。大学時代の努力は、卒業生たちの現在の「幸福」にとって、本当に無意味なものなのか。次号でさらに検証を進めたい。